08読書日記105冊目 「われらの狂気を生き延びる道を教えよ」大江健三郎

われらの狂気を生き延びる道を教えよ (新潮文庫)

われらの狂気を生き延びる道を教えよ (新潮文庫)

万延元年のフットボール』と『洪水はわが魂に及び』との間に書かれた中短編集。

この頃の大江健三郎が言う核時代の想像力、すなわち冷戦下において核の軍備拡張による抑止力を用いた外交戦略の時代にあってはもはや誰一人として文学的なフィクションは機能を果たしえない、という想像力については、いまいちぴんと来ない。そりゃ平和主義のデマゴーグだと思われても仕方あるまい、というような気配もある。しかし外部と内部に橋渡しされる狂気の可能性を、自らの系譜であるところの父、子、孫に感じ取ろうとする描写は際立っている。

「生け贄男は必要か」や「狩猟で暮らしたわれらの先祖」は特に面白い。佳作。

381p
総計30965p