08読書日記106冊目 「肉体の悪魔」ラディゲ

肉体の悪魔 (光文社古典新訳文庫)

肉体の悪魔 (光文社古典新訳文庫)

新潮文庫版で読んだ。光文社の文庫のカバーは味気ないものだが、新潮文庫のものはDavid Hiscockという写真家によるもので非常に官能的な美しさをたたえた表紙になっている。18歳のときに描かれたという表題作は、天才的であり、フランスの心理小説のさきがけとなったものらしい。

恋愛小説として、『肉体の悪魔』が優れているのは、様々なアフォリズムがきらめいているところである。

『だが、と僕は考えた。すべての人間が、自分の自由を恋愛の手に引渡すところをみると、恋愛にはよほど大きな利益があるのに違いない、と。僕は早く、恋愛なしで済ますことができるほど、したがって自分の欲望を何一つ犠牲にしなくても済むほど強くなりたいと願っていた。同じ奴隷になるにしても、官能の奴隷になるよりは、愛情の奴隷になるほうがまだましだということを、当時僕は知らなかったのだった。』

『マルト! 僕の嫉妬は墓のかなたにまで彼女を追いかけ、死後は無であることを僕は願っていた。実際、愛する人が、われわれの加わっていない饗宴の席に、大勢の人に取囲まれてつらなっているのは、耐えがたいことである。僕の心は、まだ未来のことなどは考えない年ごろであった。そうだ、僕がマルトのためにねがっていたものは、いつの日か彼女にめぐりあえる新しい世界ではなくて、むしろ無であった。』

248p
総計31213p