08読書日記108冊目 「リチャード三世」シェイクスピア

リチャード三世 (新潮文庫)

リチャード三世 (新潮文庫)

シェイクスピアの初期の歴史劇。薔薇戦争を描いている。

イングランド史を世界史で勉強したかどうか定かではない(おそらく勉強したのであろうが)ため、プランタジネット家とどこが争っていたのかも知らない無知者の俺。この歴史劇の恐るべき呪いの連鎖あるいは、呪いの「交換」は非常に迅速かつ多弁である。シェイクスピア劇の華麗なる言い回しは、現代人にとって受け入れがたくもあるだろうが、その虜になったものにしてみれば訳者の功労の甲斐あって、素晴らしく心を持っていかれるものである。本劇において面白いのが、いかに多弁であるといえどもリチャード三世は「悲劇」的ではない。リア王が彼自身の言葉において「悲劇」であったのに対すれば、リチャード三世自身が一瞬たりとも栄華を極めておらず、しかも自らに対して第三者的に対峙できる人柄もあってか、彼を悲痛さで表現してはおらず、むしろその悪徳の表現ゆえに空虚な間隙としてすら感じられる。事実、リチャード三世によってどん底に陥れられる女連中のほうがより悲嘆的であるし、多弁であるし、呪詛が重い。

『己が心の苦しみを空しい言葉に託し、昔のあだな喜びを胸に抱きしめ、今のみじめな境涯をかこつあわれな人たち! せめて言わせてあげましょう、その想いを。言ってみたところで、どうにもなりはしないけれど、気持ちだけは楽になる。』

202p
総計31622p