08読書日記109冊目 「ナイン・ストーリーズ」サリンジャー(柴田元幸訳)

モンキー ビジネス 2008 Fall vol.3 サリンジャー号

モンキー ビジネス 2008 Fall vol.3 サリンジャー号

柴田元幸による、サリンジャーナイン・ストーリーズ』の新訳。

野崎歓による新潮文庫の訳もよかった記憶があるが、何しろ、野崎訳を読んだのは小学生の頃だったので、良さが分からなかった。しかし、今大学生になって、寝る前に一編ずつ読み進めていくという楽しみを持ってみれば、サリンジャーの「子ども」というか「思春期」というか、そういったキッチュなものへバーカ!と唱えるような小気味のよさが、軽快で豊かで面白い。

9編のうち、5編は悲惨なもの、miseryなものであるが、軽やかなダイアログのドラマ性もあって、その悲惨さが最後の最後に際立つような仕組みだ。何か一編、ベストを選べといわれれば、僕はもちろん『バナナフィッシュ』もいいし、『テディ』なんかも最高だし、『笑い男』はいつでも慰めてくれるし、『エスキモー戦争前夜』もくすりとさせられる。が、やはり、何よりしみじみと暖かくそれでいて最高に悲惨なのが『エズメに――愛と悲惨をこめて』だ。戦争で赴任したドイツのある教会での、賢しげな女の子とお馬鹿ちゃんな弟との出会い。そして紳士に生きようとするも「機能不全」になっているのかもしれない自らを絶望して眺める語り手。人生の機微というとありきたりだが、強かに誠実に生きようとしても運命というか宿命というか、そういう抗えない流れが確かにあって人を飲み込んでいく。それこそが『悲惨』なのだと思う。

装丁も鮮やかで可愛らしい「モンキー・ビジネス」。

233p
総計31855p