08読書日記110冊目 「河馬に噛まれる」大江健三郎

河馬に噛まれる (講談社文庫)

河馬に噛まれる (講談社文庫)

私が読んだのは古本屋で見つけた文春文庫版であるが、いつの間にか版権が講談社に移っているらしい。

『雨の木』や『新しい人』と同系譜で捉えられる連作集。浅間山荘事件の生き残りの青年、それもみじめたらしく生き残ってしまったのではないかと自分で嘆くようなタイプの青年を中心にすえた短編である。『雨の木』や『新しい人』と比べればやや迫力と感動にかけるし、浅間山荘の本質的な読解に至っていない、むしろ事後的な生き方に焦点が置かれているために小説としての力が弱まっている。

自作の引用の多い作家として有名であるところの大江ではあるが、今回読んでみて少々それがうっとうしくも感じられた。ただ小説家として希望の書き方は分かっているのが大江である。彼の小説を読めばわたしなどはいとも簡単に勇気づけられ、predicamentから何とか生への望みをもって脱却することを、目標にすえてしまう。それが本来的な小説の力でもあろう。勇気付け、としても文学の力。それは文学的な余情にこそ現れるべきものであり、社会科学においてはそれはむしろ残酷な現実は空くとして現れるべき余情なのではないか・・・・・・

331p
総計32186p