08読書日記120冊目 「夜と霧」フランクル

夜と霧 新版

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収容所とは、全く不条理な地獄である。心理学者であるフランクルが、何とか「人間」であることをやめずに生き残れたわけは、彼が心理学者であったからだ。それはメタに自らを見つめる視線を持っていた、ということでもあろう。収容所とはすべての人から「人間」たりえる権利、尊厳を奪うおぞましいまでの全体主義である。読者はただただ圧倒的なおぞましさを研究的にみつめる冷静な視線で貫かれた記述に、おののかずにはいられない。

フランクルの哲学の眼目は、raison d'etreのコペルニクス的転回である。人生に意味はあるのか?という問いかけを、反転させることである。すなわち、人生から何の意味を見出せるか? という投企的懐疑への転回である。人生が我々に何かの意味を付与してくれる、あるいは「神」が私の人生を規定してくれる、という誤った希望を捨てて、自らが世界に投げ出され、そこから希望を見出していくという実存主義である。

わたしは、彼が妻の誕生日を祝ってやることもできず、離れ離れになって収容所の窓から差し込む描写に、ただただ感動した。

169p
総計35351p