09読書日記8冊目 『政治的なるものの再興』シャンタル・ムフ

政治的なるものの再興

政治的なるものの再興

「政治的なるもの」とはカール・シュミットを援用してムフが用いる、政治哲学の概念である。それは政治というものが常に友敵の関係性をつくりだしていくという差異/同一性の原理に根ざしている。

近代主義者とポスト近代主義者らによって交わされる一連の論争を乗り越えて、いかに「政治哲学」を復権するか、というのが「歴史の終焉」以後の絶対的な課題である。しかしそれは近代主義者らが目指したように「普遍」を志向することでもないし、ポストモダニストらのようにその「普遍性」が実は排除/権力に基づくものでありもはや「政治」なるものはなく世界は特殊に満ちて真に「自由主義」的な世界となるというような夢物語を語るのであってはならない。特殊が氾濫するということはすなわち、個別主義がいたるところで噴出し、ナショナリズム/宗教原理主義が突如勃興するという、半自由民主主義的な世界を表出するに他ならない。そこで求められるのは民主主義と自由主義の相互矛盾とそれらの限界を認識しつつ、しかも差異/同質性の線引きこそが「知」の権力であることを理解したうえで、差異の表出者としての自己同一性を担保にしながら、それらが対等に「闘争」するような政治体制を確立しなければならない、ということである。ムフは民主主義が形式=道具と堕してしまうのではなく、民主主義という理念こそが常に届かぬ限界点でありただ差異/同質性のせめぎ合いを続けていくしかないという政治哲学として捉えている。

327p
総計2180p