09読書日記20冊目 『教育と国家』高橋哲哉

教育と国家 (講談社現代新書)

教育と国家 (講談社現代新書)

左派論客の代表的な一人。もともとデリダの研究者でありながら、その「脱構築」派的な概念と、本書がどのように関わってくるのかが全く不明である。戦前の国家による民衆の一体化、懐柔化の方策としていかに教育がその役割をなしたか、ということについて多く紙面が割かれている。

国家と教育の関係性を論じようとしたとき、その知識の枠組みや、何を教え、何を教えないのかという知の偏り、教える/教えられる者の権力性について、述べるべきであろうが、本書はもっぱら戦後民主主義的な有り方を批判する保守勢力への対論的な回答に終止している。保守派が積極的に道徳教育を推し進めるのに対して、もはや近代的な自由主義的思想あるいは知の認識論的枠組みからは、どのような「道徳」も積極的に教えられるべきではないという相対主義が対極的に表れてくる。このアポリアの解決は本書では伺えない。僕自身は筆者の政治的スタンスに近いのであるし、「愛国心」なるものを国家権力が民衆へ強制することについては非常に危機感を覚える。しかし一方で、公共性が解体し、政治が民衆の手から離れていこうとする今、愛国心パトリオティズムの問題は切っても切り離せないものであり、その意味でパトリオティズムが公共性の復権へ何らかの役割を果たすのかもしれない、とも考えている。

問題意識は共有できるが、それが通り一遍の居酒屋談義的な左派の視座に堕してしまっていて、アカデミズムの範囲で読まれるべきものではない。それに、一般読者を想定したとしても、たいして面白いというものでもない。一日で読んでいい。

211p
総計7191p