09読書日記26冊目 『公共哲学とは何か』山脇直司

公共哲学とは何か (ちくま新書)

公共哲学とは何か (ちくま新書)

グローバリゼーションでも、エスノセントリズムでもナショナリズムでもない、グローカルな公共哲学を謳っている。

本書においては具体的な理論的素描がなされているだけであるが、ポスト近代における地球規模のアポリアを思想史を通して概括できる点で、理解が進む。しかし、実際に「公共哲学」と「哲学」を名乗っている割りにはその中心的課題であるはずの「善」の内実については、あまり記述がないようである。確かに、政府の公/民の公共/私的領域という三幅対は、二分法的に為される政府/民間という新自由主義的な勝者の理論を乗り越えていくには「民の公共」を説く方法的意義は認められる。しかし、果たしていかに民の公共を成就しうるかという理論的説明はあいまいである。民の公共の復活、それはハーバーマスが近代の初頭日本の一瞬だけ理念型的に現れたという公共圏と似通っているように感じられるが(もちろんそれよりももっと普遍的ではある)、これこそが現代のアポリアの中核をなしているに違いないのである。とはいえ、哲学史に精通した筆者ならではの理論的概括は現代の「シヴィック」な市民、しかもグローバルでありローカルに生きる市民としての「民の公共」を成り立たせるという理念は、賛成できる。

滅私奉公でも、滅公奉私でもなく、活私活公を謳い文句に掲げる「公共哲学」を、いかにして現代の哲学や学問がその成果として結実できるかが真に問われている。なお、付されている参考文献のリストは、よくまとめられていてブックガイドとしても優れていると思う。

238p
総計9090p