09読書日記27冊目 『闇の奥』コンラッド

闇の奥 (岩波文庫 赤 248-1)

闇の奥 (岩波文庫 赤 248-1)

ポストコロニアリズムの文脈でも引用されることの多い本作。

闇の奥Heart of Darknessが、執拗低音として二つの形をとりながら小説の中で表れる。一つは、人間の心の奥底であり、もう一つは、アフリカの奥地―原生林が生い茂り、『人食い人種』がいるジャングルの奥である。人間の心(闇)の奥に眠るのは、真実ではあるが、それを伝えるのは言葉である。しかし、言葉は用いられるたびに真実からは遠ざかっていく。マーロウはそれを恐れる、つまり嘘を恐れる。文明とはすなわち言葉を得て合理的に生きる人々らの共同体に他ならない。それゆえマーロウがアフリカ奥地で感じるのは、「真実」であり、その真実を得るには、「少なくともあの河岸の連中と同じ人間らしさに帰らなければならない」のである。すなわち、言葉を尽くす文明社会ではなく、原始の闇黒に立ち戻って、狂騒に共鳴せねばならないのだ。

短い小説では有るが、クルツをどのように解釈するのか、象牙の象徴するところは何か、闇の奥を覗き込んでしまったクルツは結局、闇に落ちてしまったのか、というようなことを様々と考えさせられる。

『ただ彼の魂は常軌を逸していた。たった一人荒野に住んで、ただ自己の魂ばかりを見つめているうちに、ああ、ついに常軌を逸してしまったのだった!』

174p
総計9264p