09読書日記43冊目 『岩波講座 哲学10 社会/公共性の哲学』

岩波講座 哲学〈10〉社会/公共性の哲学

岩波講座 哲学〈10〉社会/公共性の哲学

井上達夫杉田敦森村進、齋藤純一、橋本努などが社会/公共性について論じた短い論文を収録してある。


冒頭二論文は導入的であり、井上達夫杉田敦が担当していて、それぞれ社会/公共性を論じていく際のよいスタートとなっていると思う。井上はコミュニタリアニズムを認めず、ナショナリズムをそれの亜種とみなすかのような、あくまでリベラリズムに基礎付けされた公共性への導入を促す。杉田敦論文では、社会が市場や国家と確定的に境界線を引くことが難しく、それぞれが癒着していくケース(国民国家においては社会=国家となりやすく、新自由/保守主義的な国家においては国家=市場となりやすい)をといていいる。


特に興味深かったのは、第Ⅱ部「不確かな社会における公共性」における齋藤純一「感情と規範的期待――もう一つの公私区分の脱構築――」と、中山竜一「リスク社会における公共性」の二論文であった。齋藤論文では、公共的な議論の場から非-理性的であるとして排除されてきた感情は、実は規範的な正義が履行されていないことに対する表現であるのではないかとして、「現れ」としての感情表現をいかにして公共的な討議の俎上に上げていくのかということを論じている。中山論文では、不確実性に色づけられたリスク社会において、そのようなリスクを行政や科学にゆだねるのではなく、どのようにして公共性がそのリスクについて責任を持っていくのか、という現代的な議論が展開されている。


全体的に面白く導入にもってこいの論文が多かったが、井上彰による「正義・最小限真理・公共的理由」論文は以上に抽象度が高く何を言っているのかわからなかった。


260p
総計13713p