09読書日記44冊目 『小説の精神』ミラン・クンデラ

小説の精神 (叢書・ウニベルシタス)

小説の精神 (叢書・ウニベルシタス)

ミラン・クンデラの評論(エッセイ)集。7部からなっていて、それぞれが変奏的ながらもクンデラが自身をヨーロッパの小説文化の中に連ねつつ、小説の条件(精神)とは何かを語っている。


彼の小説を書くときのスタンスもさることながら、小説の精神についての思想は興味深い。クンデラにとって、小説の条件とはブロッホを引きながら繰り返される「小説だけが発見できるものを発見する」散文に他ならない。小説という形態をとって、作者は人間の実存を探っていき、究極的には<あれかこれか>によっては決定できない人間的事象の不確実性や多様性を暴き出す。様々な逆説(遊び、夢、思考、時間)を素材にして小説が成り立つとき、その小説は人間実存にとって「未知」なるものを発見し、いわば「小説の歴史」に名を連ねることができる。


二十世紀にあって、小説が自己内部の魔物との格闘から解き放たれ、その<外部>=<歴史>との格闘を運命付けられているのだとしたら、まさしくカフカクンデラも<歴史>という「存在忘却」の恐ろしさからいかに個人の多様な内面を守るのか、ということに腐心してきた作家であるといえるだろう。小説家はその作品によって「実存の地図」を書き、その小説世界の中で「人間の世界のこの上ない可能性、しかも実現されていない可能性」を探求する。クンデラカフカムージルブロッホなどを引き合いに出して二十世紀の小説へ展望を与えており、彼によるカフカ論「そのうしろのどこかに」は非常に愉快で示唆的なエッセイとなっている。


あとは、『本当のわたし』、『緩やかさ』、『ジャックとその主人』、『別れのワルツ』、『可笑しい愛』、『裏切られた遺言』、『カーテン――七部構成の小説論』が残っている。

202p
総計13915p