09読書日記47冊目 『洪水はわが魂に及び』大江健三郎

洪水はわが魂に及び (上) (新潮文庫)

洪水はわが魂に及び (上) (新潮文庫)

洪水はわが魂に及び (下) (新潮文庫)

洪水はわが魂に及び (下) (新潮文庫)

久しぶりに読む大江健三郎。全体を突き抜ける充実した緊張感と、ふとしたときに現れるユーモア、無垢であるところの白痴の子ジン、鯨と樹木へと交感を試み続ける主人公。それらが多声的に組み合わされながら小説は進んでいく。大江の小説は難しいと敬遠されるのではあるが、彼は実際に小説のエンターテイメント性も十分に承知した作家なのであって、クライマクスに向かいつつどこかでそのクライマクスが解放されぬアンチ・クライマクスへ終わってしまうのであろうという読みをさせることで読者は満足する。

興味深かったのは<性的解放>を娘に教えてやって死ぬことができると知って充実した気持ちになるところ。すべてよし!となる日は来ないであろうが、それは祈りとして確かにわれわれが引き継ぐべきものだろう。


とはいうものの、やはりもっと実存的であった『万延元年のフットボール』には劣る。


605p
総計15176p