09読書日記91冊目 『ABC戦争 plus 2 stories』阿部和重

ABC戦争―plus 2 stories (新潮文庫)

ABC戦争―plus 2 stories (新潮文庫)

山田詠美に続き、こちらも三篇の短編集。『ABC戦争』『公爵夫人邸午後のパーティー』『ヴェロニカ・ハートの幻影』。蓮實重彦が解説を書いているのには笑えるが、というのも初期の阿部和重はどうしようもなく蓮實文体なのであるからだが、それにもかかわらず疾走感がある。それは、物語の冒頭で延々書き継がれる蓮實文体が、途中から自然な形で短くなっていくことで得られるものであろう。本書の三短編は、『インディヴィジュアル・プロジェクション』や『アメリカの夜』と同様、物語の記述そのものに主題をあて、作者・物語・読者の三副対をごった混ぜにして見せる。物語そのものの面白さは、阿部和重の小説に付着する表層として指摘することはたやすい。しかし、彼の小説が物語ろうとするものは、極めて不自然である。おそらくその不自然さにこそ、面白さの根源が宿っているのであろうが、それを考察するには、朝六時と言う時間は不適切だろう(と言って逃げることにしよう)。とはいえ、『ABC戦争』で繰り広げられ、果ては『シンセミア』で壮大な仕掛けとして機能する、「散種」と「逸脱」「差延」というデリディアン的な戦略は明らかであろう。彼が一貫して負い続けているのは、小説の作者として物語る=書くということの暴力性を認識しながらも、しかしなお書かねば語らねば落ち着かないという、ホモ・ロゴス、あるいはストーリーテラーの悲痛さなのである。僕は、大江『万延元年のフットボール』、夏目漱石『こころ』にも通底するものを感じる。


317p
総計31198p