09読書日記93冊目 『過去と未来の間』ハンナ・アーレント

過去と未来の間――政治思想への8試論

過去と未来の間――政治思想への8試論

歴史の意味 (1970年) (過去と未来の間に〈第1〉)

歴史の意味 (1970年) (過去と未来の間に〈第1〉)

文化の危機 (1970年) (過去と未来の間に〈2〉)

文化の危機 (1970年) (過去と未来の間に〈2〉)

齋藤純一さんが新訳を出しているみたいだが、僕は古本屋で志水速雄訳を購入。確かに、そんなに良い訳とは思えない。ドイツ語のところはほとんどそのまま残っているし。ルネ・シャールアフォリズム「われわれの遺産は遺書なしに残されたものである」とフランツ・カフカの『彼』という寓話を批評することで、「過去と未来の間を動」きながら政治思想に関する「実験だけでなく批判」を行った試論集。
過去と未来の圧力の狭間で、そのどちらにも抗することで、時間の連続した流れを裂き、精神に固有の領域を与えているのは、人間そのものの誕生、はじまりのはじまりである。人間が過去と未来に対して反旗を翻すとき、彼は自分自身の頭で思考し、その精神の領域を作り出しているのだ。思考と記憶と期待が繋がり、それが触れるものをすべて歴史的・伝記的時間という破滅から救い出す。過去から遺産なしに残され、過去がその光を未来に投げかけるのを止めた時代に、われわれは新しい思考を取り結ばねばならない。

第一章 伝統と近代
第二章 歴史の概念――古代と近代
第三章 権威とは何か
第四章 自由とは何か
第五章 教育の危機
第六章 文化の危機――その社会的政治的意味
第七章 真理と政治
第八章 空間の征服と人間の大きさ

特に第二章の中で展開されるmortality/immortalityについての歴史概念の議論は、アレント全体主義的な政治と功利主義的な政治の両方を批判しながらも、その間で揺れ動いていることを示唆する様で面白い。第六章、第七章も併せて読まなければ、真の理解には至らないだろう。

厄介な点は、観察しうる事実にしろ一つの自然現象にしろ報道された行為や歴史上の事件にしろ、ともかく特殊な出来事が、それがはめ込まれると思われる普遍的家庭がなければ意味のないものになるということである。しかし意味――秩序と必然性――を見いだそうとし、特殊なものの偶然的性格を免れようとしてこの家庭に近づいた途端、人間の努力はあらゆる方面から反撃を食らってしまう。つまり、押しつけたいと思う秩序、必然性、意味はどんなものでも可能となるのである。

アレントの『人間とは何か』『革命について』をはるかに凌ぐ難解な文章が続く。しかし、文学的アフォリズムに富み、単純さを嫌って複雑さを思考する彼女の哲学的な営為は、それだからこそいつまでも読まれ続ける力を持つのだろう。

198+186p
総計31967p