2009年映画ベスト10+α
去年から今年にかけて、映画を継続的に見るようにしてきた。これまで全然映画を見てこなかったので、いくつもの新鮮な出会いがあった。2009年は(12/24時点)50本の映画を見た。
今年公開された中で印象に残ったのは
1.『グラン・トリノ』
2.『チェンジリング』
3.『イングロリアス・バスターズ』
4.『ミルク』
ランク付けと言うわけではないが、1,2はイーストウッド当たり年を決定付けた。どっちも後半泣けまくった。1はモロにそうだが、実は2も「失われたアメリカの精神」を主題にしていると思う。1ではグラン・トリノがメタファーとして中国系二世に受け継がれるのは分かりやすい。一方、2では〈アメリカ〉が失われてしまっているが、なおも〈アメリカ〉の存在を信じて生きていかねばならないという悲観的な楽観主義が描かれている。3の『イングロ』はど派手でザッツ・映画だった。戦争をとことん茶化すことで、それを見るものに受け継がせていく力を、想像力に溢れたこの映画は持っている。4は良い線いってるのだが、ショーン・ペンがいまいち好きになれないのと、マイノリティ運動の政治性がどうも薄っぺらい様な気がした。自分の専門関心に近い分野の映画は、物語にコミットしてみるのが難しい。とはいえ、最後の高揚感と急展開的に訪れる挫折、受け継がれていくミルクの意志、そういったものを感じた。
ここまでまとめてみると、これらアメリカ映画の四作は、〈継承〉ということをモティーフにしていることは明らかだ。僕はこれらの映画をアレントの次のような言葉とともに、知らず知らずのうちに見ていたのかもしれない。
新しい精神、なにか新しいものをはじめる精神――この革命精神がそれにふさわしい制度を発見するのに失敗したとき、このようなもの、あるいは多分それ以上のものが失われた。この失敗を償うことのできるもの、あるいはこの失敗が最終的なものとなるのを阻止できるものは、記憶と回想を除いては、ほかにない。(『革命について』)
受け継がれるべきものは、多くの場合「遺言書なしに残された」ものなのである。上の4作の映画は、どれも「遺言書なしにわれわれに残された遺産」を、〈映画〉という装置を通じてわれわれに投げかける。
そのほか、今年見た映画では
1.『パリ、テキサス』
2.『ベルリン、天使の詩』
3.『ダージリン急行』
4.『トウキョウ・ソナタ』
5.『グッド・ウィル・ハンティング』
6.『エレファント』+α『ロード・オブ・ザ・リング』三部作
がよかった。なんしか、今年の収穫はヴィム・ベンダースという監督を知れたこと。1で味わった感動は、今までのものとは違って不思議な余韻を引きずるものである。子供ものの中でも特に、子供をダシにして涙を誘うのではなくて、あくまで子供をとりまく身勝手な親たちの表情に泣かされたのかもしれない。2はこれほど詩的な映画は見たことがない。1,2はレンタルショップに置いてないことが多いが、その点で3はお勧めできる。押し付けがましい教訓はない。笑っているうちに最後Les Champs-Élyséesが流れて、ああもう終わってしまったのかとため息をつく、そんな映画。4も圧倒的に切ないことが笑え、笑えることが切ないという変な映画。そして、微かに再生の気配さえ漂う。5は再鑑賞。やっぱり好き。そして同じ監督(ガス・ヴァン・サント)による6もそれなりに良い。時間軸を何度も何度もことなる登場人物の視点からなぞっていく感じ、そしてキスもしたことがないけれど、銃をぶっ放さざるをえなかったというその物語が、胸に迫る。最後に弾いていた「エリーゼのために」が印象深い。+αは友達と見た完全版(!)。世界を救ったものが、最後世界から出て行かねばならないという壮大なファンタジーは、人間前史なのであり、同時に人間通史でもある。指輪を廃棄した後に、われわれ人間は貨幣を手にしたのだ。
ここにあげた10作は、もう少し経ってまたゆっくり見たいと思わせる素晴らしいものたちだった。(お、ウディ・アレンが一作も入っていない!)