10'読書日記85冊目 『どつぼ超然』町田康

どつぼ超然

どつぼ超然

306p
総計26462p
町田康をはじめて読むのがこの本でいいのだろうか。何も起きないのだが、主人公の脳内ではいろんなことが起きている。エッセイ風でありながら、これはしかし、小説なのではないか、しかも私小説では、などと思いをめぐらせる暇もなく、主人公「僕」は、「飄然」と生きることを求めて温泉町・田宮に引っ越してくる。田宮の町を彷徨するうち、しかし、「僕」はちっとも「飄然」としていないことに唖然とし、飄然ではダメだ、「超然」だ!と思い至り、さらに一人称が「余」になるのだ。そして、最後まで「余」の独白がつづられていく。寡聞にして、今までの小説において「余」が一人称に使われたことがあったろうか。そして「余」が大阪弁を喋るなんていうことがあったろうか。本書がエッセイでも、単なるブログ記事でもなく、「文学」なのは、ふざけ散らしたリズムのいい文章に時折、なんじゃこれは、という文を書き付けてくる町田康のふまじめさなのだが、それも「善哉善哉」である。