2010年の10冊

今年は、大学院に入って一年目、東京に来て一年目、慣れないことが多かったです。バタバタしてたり精神的に不安定やとあんまり読書できなくて、そういうのが響いた98冊でした。今年はなんというか心に響く読書があんまりなかったというか、すごい読書体験をした感じがしませんでした。なんででしょうか。僕が迷ってるからなんでしょうか。そんななか、文学関係は13冊。こちらももっと読みたいのですがそうもいかへんのですな。。。くそー
というわけで、今年読んだ本のベスト10です。ベストですが、順不同。

1.ミシェル・フーコー「性の歴史Ⅰ 知への意志」
2.齋藤純一「政治と複数性」
3.ジュディス・バトラー「自分自身を説明すること」
4.柄谷行人トランスクリティーク
5.アルバート・O・ハーシュマン「情念の政治経済学」
6.イマニュエル・カント「永遠平和のために/啓蒙とは何か」
7.アイザイア・バーリンロマン主義講義」
8.マルカム・ラウリー「火山の下」
9.フェルディナンド・セリーヌ「夜の果てへの旅」
10.大江健三郎「静かな生活」

知への意志 (性の歴史)

知への意志 (性の歴史)

フーコーは、今年一番読みました。おそらく13冊読んでます。まったく僕の修論のテーマはどこへ行くのだろうかと不安になりますが、何にせよフーコーは読んでいてわくわくしますね。あんまり「なるほど!」感はないのですが、とにかくよくわからんがかっこいいことを言っていそうだ!的無意味な高揚感があります。筑摩文庫のコレクションのいくつかも非常に心に残っているのですが、あえて一冊を選ぶなら「知への意志」でしょうか。
政治と複数性―民主的な公共性にむけて

政治と複数性―民主的な公共性にむけて

こちらはアレント研究者の本。齋藤先生の「自由」「公共性」も素晴らしかったのですが、これも同様。「複数性」ということだけにとどまらず、福祉や社会的なるものについても論じられています。アレントに関わる研究で一番しっくりくるものがありました。
自分自身を説明すること―倫理的暴力の批判 (暴力論叢書 3)

自分自身を説明すること―倫理的暴力の批判 (暴力論叢書 3)

バトラーは「ジェンダー・トラブル」も読んだのですが、こちらのほうがおもしろい。フーコーの晩年の「自己への配慮」系の話をどう捉えるのか一つの型になるかもしれません。主体と権力の関係性において、道徳とはどういうものか論じた本です。僕自身、「主体」の話にすごく興味があるので惹きつけられます。訳も優れて読みやすい。
トランスクリティーク――カントとマルクス (岩波現代文庫)

トランスクリティーク――カントとマルクス (岩波現代文庫)

言わずと知れた、というやつでしょうか。カントってここまで面白いのか、と遅ればせながら気付きました。本書の論点である、国家と資本主義をそれぞれ別個のメカニズムで解釈しなければならない、ということはもっと強調されていいかもしれません。特に、今年の後半、院ゼミでマルクスのフランス三部作を読んでいてそう思いました。
情念の政治経済学 (叢書・ウニベルシタス)

情念の政治経済学 (叢書・ウニベルシタス)

なぜこのように重要で、しかも思想史の読み物として面白い本が絶版なのか分かりません。「情念」は、今年の前半に岩波の「思想」でも特集されていました。理性に対して「情念」をどういう枠組みで捉えていくのか、それを考えるときにはなくてはならない一冊でしょう。スミスの扱いが独特のように感じます。
永遠平和のために/啓蒙とは何か 他3編 (光文社古典新訳文庫)

永遠平和のために/啓蒙とは何か 他3編 (光文社古典新訳文庫)

カントを研究しようかなあとぼんやり思い始めています。そのとき僕が関心があるのが「自然」であり「啓蒙」です。本書では「自然」が自然神学的・合目的論的な導きとして登場します。カント全体の中での「自然」は大きいテーマですが、それを政治思想の中で見ていけるかなあ、と感じています(すぐに方針転換されるかもしれないけれど)。あるいは、フーコーは「啓蒙とは何か」に注目しましたが、僕はあの読み方とは違った風に読んでみたい、という感じもしています。
バーリン ロマン主義講義 (岩波モダンクラシックス)

バーリン ロマン主義講義 (岩波モダンクラシックス)

これは、twitterで話題になっていて手にとってみました。ロマン主義についてはほとんど門外漢だったのですが、バーリンの講義にすっかり魅せられてしまいます。このような講義を実際に聞かされたなら、まさに「白熱」するのではないか、とも!
火山の下 (EXLIBRIS CLASSICS) (エクス・リブリス・クラシックス)

火山の下 (EXLIBRIS CLASSICS) (エクス・リブリス・クラシックス)

夜の果てへの旅〈上〉 (中公文庫)

夜の果てへの旅〈上〉 (中公文庫)

夜の果てへの旅〈下〉 (中公文庫)

夜の果てへの旅〈下〉 (中公文庫)

静かな生活 (講談社文芸文庫)

静かな生活 (講談社文芸文庫)

この三冊は小説です。阿部和重ピストルズ」も良かったですが印象はちょっと薄い。むしろ同じくらい長い小説でいくと、マルカム・ラウリー「火山の下」の新訳が素晴らしく良かったです。常に酔いどれの雰囲気のなか破滅へと邁進していく雰囲気がたまりません。南米万歳です。セリーヌは夏のヨーロッパ旅行の思い出に。