'11読書日記13冊目 『八日目の蝉』角田光代

八日目の蝉 (中公文庫)

八日目の蝉 (中公文庫)

376p
総計3792p
久しぶりに、小説を読んで泣いた。僕が泣いたり感動したりする本は小難しい外国小説だけだと思っている人にも、是非勧めたいすばらしい本である。単純に、本書を純文学のカテゴリーに(あえてそういうカテゴリーがあると考えて)入れることは難しい。本書がベストセラーになっていることを考えても、様々な人に読みやすい本であることは間違いがない。実際、本書はそういうカテゴリーを差し置いても、文学的にそして社会学的に優れている。
くだくだしくなってしまった。本書の中で僕が一番感動したのは、登場人物がすべて、自らの人生を偶有的なものとみなしているところである。本書に出てくる人々は、どうして他でもない私がこのような人生を送らねばならなかったのかという否定的な感情に満ちて生を送っている。しかし、その否定的な感情が、一気に肯定的なものへと変換される、その瞬間が人生にはかならず訪れる、そのような希望を本書は描き出す。それは文学的希望にすぎないかもしれない。あるいは希望とは文学的にしか語れないものなのかもしれない。しかし、そのように語られた希望こそは、人の生において真摯に連れ添ってくれるような希望にほかならないのだ。
(また、本書には、優れたジェンダー意識があるということも、最後に付け加えておきたい)。