'11読書日記27冊目 『話の終わり』リディア・デイヴィス

話の終わり

話の終わり

273p
総計8210p
空中キャンプさんが良いレビューを書かれてらっしゃるのを見てこれを読んだ。私小説風に書かれてはいるがこれが小説なのかエッセイなのかよく分からない。〈私〉は終わった恋をいつまでも引きずっている翻訳家・小説家であり、自分の恋を小説にしようとしているらしい。かつての恋人の面影を探し求め、記憶の許す限りすべてを書き連ねようとしている。とりたてて何かが起きるわけではないし、ただずっと〈彼〉のことをうだうだと想い続けているだけの小説である。最初は、はっきりいって退屈である。だが、徐々に読み進めていくうちに、〈私〉の思考の流れが読んでいる僕の思考のひだに入ってくる。〈私〉は、しかし、いったいどうして恋人の話を書いているのか。恋人に対する愛を自分の中で整理・昇華するためなのか。それもあるかもしれない。だが、〈私〉はこの「話」を何年も書き続け、小説にまとめそこねてしまっている。〈私〉は何度か諦めようと思い、しかしそれでも書かざるをない気持ちになる。最初は小説にして気持ちを昇華しようとしていたのかもしれないが、そのうち目的が目的性を失っていく。書くことが〈私〉の一部となっていく。〈私〉は彼のことを忘れたい、終わらせたいと思いつつも、全ての記憶を凝縮させ、全てを忘れたくないと思っている。それゆえ、いつまでたっても「話」を終わらせることができないで、長々と淡々と書き綴っていくしかないのだ。
僕にしては、思い出したくないけど忘れたくないことばかりなのだ、と思いながら読んだ。時に痛切に〈私〉の想いが侵入してきて胸が痛くなることがある。もう一度じっくり読んでみたい小説。