'11読書日記47冊目 『理性の不安――カント哲学の生成と構造』坂部恵

理性の不安―カント哲学の生成と構造

理性の不安―カント哲学の生成と構造

244p
総計14814p
1760年代、批判期前夜のカントは理性のアイデンティティ・クライシスにあった。筆者は、このことを、カントによるルソー的著作、いやルソーに先んじて『対話』そのものであった『視霊者の夢』から解き明かしていく。『視霊者の夢』は、正式には「形而上学の夢によって解明された視霊者の夢」と言うのだが、カントの目論見はむしろ、伝統的なライプニッツ-ヴォルフ流の形而上学を「夢」として、死霊者の夢とともに破壊することであったのだ。だが、それは同時にカント自身のよってたつ基礎が足場から崩れ去っていくことをも意味している。なにせよ、カントこそライプニッツ-ヴォルフの形而上学から育った子どもなのであったのだから。『視霊者の夢』は自己嘲笑の不気味なさざめきに満ちている。筆者はここに、「人間」や「理性」といった近代的哲学の産物が、覗き込むことを禁止された深淵に飲み込まれていくさまを見て取るのだ。――この無定形の不安と自己嘲笑の無窮運動。
カント哲学の、いわば裏バージョンをなす本書のような思想史の試みはスリリングである。が、僕はあまりどうしても最後の章の話が好きになれない。