'11読書日記48冊目 『溺レる』川上弘美

溺レる (文春文庫)

溺レる (文春文庫)

204p
総計15018p
なんだなんだ。『ニシノユキヒコの恋と冒険』とはぜんぜん違う。なんだろうこの浮遊感と恐ろしさ。そうだ、恐ろしさがこの短編集のテーマだ。生きることへの恐ろしさ。より正確に言えば、生きざるを得ないでいること、生かされていること、まったき受動性の生を生きているということ、これらの恐ろしさだ。主人公の女は、生きもし、死もし、そして死後も生き続ける。男たちは女にとりとめもない風に寄り添って離れ、離れては寄り添う。彼らは世間離れし、あるいは世間から遁走する。逃げこむ先は、全く逃げ込めない場所、生きざるを得ない受動性の果てである。そこでは自由や意志の能動性は解除され、自我と他我の区別さえありがたい。おそろしさ。