'11読書日記49冊目 『原発を終わらせる』石橋克彦(編)

原発を終わらせる (岩波新書)

原発を終わらせる (岩波新書)

245p
総計15263p
科学者・社会学者による「原発を終わらせる」ための論集。科学者による原子力発電の仕組みや事故の詳細から始まり、社会科学者の視点から原発と社会の問題まで14人が論じている。
特に興味深く勉強になった論文を挙げておく。吉岡斉論文は、原子力という科学が資本と国家の論理に収奪されイデオロギーとしての「安全神話」がいかに原発の反-安全へと実際に機能したかを明らかにする。科学と資本/国家の問題を考えるときに欠かせない視点だと思われる。伊藤久雄論文は、原発依存の地域社会の問題を論じている。特に蒙を啓かれたのは、原発を誘致した過疎地域がどうして借金を背負い、地方交付税の交付対象となっているかという疑問に答えている点である。原発を誘致すれば電源三法から国庫負担の交付金が与えられ、また原発設備の固定資産税も入ってくるため歳入は潤う。だが、それは一時的なものに過ぎない。というのも、原発設備は償却資産であり、償却期間が過ぎればそれに対する固定資産税もなくなってしまうからだ。それゆえ、誘致した市町村は「原発設備をもっと!」という状態――原発麻薬依存状態になってしまうのだ。同様の観点から、清水修二論文でも、脱原発依存と地域社会の自律がセットで考えられねばならないことが論じられる。具体的に、自然エネルギーを用いた地域社会の自律・再生が提案されてもいる。また、飯田哲也論文、諸富徹論文では、自然エネルギーへとエネルギーをシフトさせていく必要性が訴えられる。どちらも日本のガラパゴス化を憂慮していて、自然エネルギー産業へのイノベーションをどう促していくのか具体的な方策まで踏み込んだ議論が展開される。電力の自由化の問題を含め、今後の議論の土台となるために必要となる論文集だと言えるだろう。