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夏期講習ラスト。95年のセンター国語・評論を高1の女子とやってみたら、問題文が文学的で難しかった。今の評論は分かり安すぎて面白くない、というときがある。饗庭孝男という文芸評論家の、異なる言語圏で生活することに関する文章。なかなか悪くない。

(異なった言語圏で生活するという)この場合、自分の存在は、鋭敏となった感覚とほとんど等価である。一つ一つの何気ないような日常的な体験さえもが存在の核心にひびいてくるのである。そのようであれば、自分が発する言葉の重みは、それが生まれた歴史の深みと生活をもって、自分がただ必要としたいその言葉の有用性を正確に背後からうちのめすのである。

夜に少しskypeジェンダーの話とエロティシズムの話。このあいだ、谷崎潤一郎『鍵』について後輩Mくんと話したことなどを。バタイユによればエロティシズムとは《侵犯》、社会的規範の《侵犯》である。谷崎の小説は、ほとんどこのバタイユの定義を裏付けるものとして読める。だが、僕はエロスについてあまり語りたいようには思わないのだ。というのも、《侵犯》としてのエロティシズムを愛でることは、ひるがえって社会的規範を再承認することにほかならないからである。性(sex or gender ?)をエロス化する方向は、結局既存のジェンダー秩序を固定的に捕らえることにならないだろうか。フーコーはほとんどエロスについて語ることはなかった。エロスではなく《快楽》plaisirsについて語った。そこに、谷崎的な陰翳礼讃はない。バタイユ的な秘教主義もない。陰翳の中で行われるむせかえるようなエロスは、結局のところ権力関係を揺るがすような事にはならないのだ。そうではなく、フーコーは身体の技法としてのエロティカを、あたかもスポーツのように語ろうとする。規範の眼差しによって奪われると同時にエロス化eroticizeされた快楽を、自らの身体存在の元で捉え返すこと。カリフォルニアの照りつける太陽のもとで、スポーティにセックスすること、これは僕が思うに、エロスではない「快楽」だろう(絶対的に付け加えておかねばならないのは、熊谷晋一郎『リハビリの夜』はエロスではない快楽を機軸にした身体のあり方について必読書だということである)。だが、実際、エロス/官能なしのセックスは快楽なのだろうか。背徳的な交接ぬきに、僕らは愛し合えるか? 

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昼散髪。かなり短くなる。のあと羽田空港から鹿児島へ。飛行機に乗って即座に眠りに着き、目が覚めるとまだ空港に留まっていたので驚いた。ゲリラ豪雨らしく、飛行機が飛ばない。一時間近く待って漸く。90mmくらい降ったところもあったらしい。異常気象? 鹿児島へは六月ぶり。祖母が亡くなり、祖父一人だけで広い家に暮らしている。僕と「だれやめ」(「打ち上げ」という意味の鹿児島弁)をするのが楽しみで仕方がない、と言っていたから、祖父に合わせて焼酎をがぶがぶ。ビール党員にはちょっときつかった。鹿児島の夕方は、良い風が吹いて涼しい。東京よりもよっぽど。夜、少しスカイプ
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母も鹿児島へ来て、祖母の遺品の整理など。一人でいる祖父のために料理を作り置きしておく。桜島の活動が活発で、火山灰がたくさん飛んでくる。窓を開けているとほこりまみれになってしまう。祖母の墓参りも済ませ、汗をぬぐいながら三人で「だれやめ」。母の料理を食べるのは、僕も久しぶりで、つい食べ過ぎる。ひじきとか高野豆腐とか、そういうのは本当に自分で作らないし食べないから。
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ゆっくりと起きて、もって来た勉強をする。祖父と母は家の片付けでバタバタ。祖父はもう82なのだが、まだボケてもいないし元気である。一人になったとき、ふとしたことで事故にあったりしないよう、それだけが心配。結婚云々の話は一度もなくて、それだけで居心地がよくてほっとした。あれはやっぱり嫌なものですね。この日はビールと焼酎とワインと。鹿児島の魚は新鮮で、刺身がとてもおいしい。
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鹿児島空港から神戸空港へ。祖父はさすがに寂しそうであった。東京-鹿児島は、スカイマークを使えば1万円強で行けるので、暇を見つけて遊びに行ってあげたいところ。暇は見つからないし、億劫になるけれども。空港には父が新車で迎えに来ていた。久しぶりに車を運転したり。家に帰ったら、民主党党首選。野田か。のだめ。党首選の争点に、脱原発のことが一切絡んでこないところが、もはや民主党おわてーる状態。菅もたいがいだが(M先生は極大までカリカチュアライズされた市民運動の象徴と評していた)、脱原発を明らかにしたその一点のみにおいて僕は推したい。そりゃ、推さんでいいんやったら推したくはないけれど。父とも原発の話を少々。必然的に、日本の「成長」の話にもなり、この国の10年後はもっと悲惨になっているであろうと言うところで話が落ち着く。いや、落ち着いたらアカンのやけれども。実家のネット環境が悪すぎて、残暑。