'11読書日記80冊目 『現代に挑むカント』ノルベルト・ヒンスケ

現代に挑むカント (哲学叢書)

現代に挑むカント (哲学叢書)

184p
総計23783p
「カント哲学の現代的意義」みたいな話になると必ず永遠平和(いやもちろんそれにも意義はあると思いますが)とか、定言命法の色褪せない輝き(確かに僕はこのラディカリズムが好きですが)が定番メニューで、まあそれはそうなのだがしかし・・・と思わずにはいられないのだが、本書は1980年に書かれたにも関わらずそのような安易な現代的意義に飛びつかず、むしろちょっと変な視点から「現代に挑むカント」像を提出していて面白い。
例えば、第二章「カントと啓蒙主義」で取り上げられるのはカントの誤謬論である。カントは(批判哲学の印象を覆すかのように)どんな誤謬にも何らかの真理が含まれていると述べた。そこから筆者はある種のプルーらリズムの源泉を見てとる。相手がいくら誤謬を犯していようがそれを全て切って捨てることはできず、その誤謬の中に含まれる真理の断片を互いに探索すること。実際、カントは『人間学』の中で多元主義という言葉を使っていたりする。ハーバーマスの理想的対話状況よりも、可謬主義的で多様性に開かれている議論だと思う(もちろん絶対にいつかは真理に到達するはずだという無限の未来を前提として入るものの)。
あるいは第四章ではカントの行為論が、仮言命法定言命法の二分法ではなく、技術/怜悧/道徳の三分法に基づいているということが強調され、さらに今まで看過されてきた実用的人間学の「実用的」の射程がしっかりと押さえられている。実用的は、先の三分類で言えば怜悧に対応し、それは人間を自らの幸福のために扱う術なのであるが、それは道徳の下分類としてカント哲学内におさめられている。