2011年の10冊

2011年に読んだ本ベスト10です。今年は89冊読みました。小説はほとんど読めなかったので悲しいかぎりですが。

1.熊谷晋一郎『リハビリの夜』
2.スラヴォイ・ジジェク『否定的なもののもとへの滞留』
3.大澤真幸『社会は絶えず夢を見ている』
4.アレンカ・ジュパンチッチ『リアルの倫理――カントとラカン
5.宇都宮芳明『カントの啓蒙精神』
6.原武史『滝山コミューン1974』
7.石川直樹『いま生きているという冒険』
8.リディア・ディヴィス『話の終わり』
9.松浦理英子ナチュラル・ウーマン』
10.ロバート・ペン・ウォーレン『すべて王の臣』
(順不同)

1は2011年最初に読んだのですが、新鮮な驚きに満ちた非常に素晴らしい本です。小児マヒ患者である筆者が、リハビリを通じて体験した身体の規律訓育の権力に敗北し続け、その敗北がもはや官能的でさえあったこと、さらにその「敗北の官能」へ向かうのではない別の身体のあり方として「結びつつ解けあう身体」という可塑的で別様な身体性を理論的に探求しています。こう書くと難しげですが実際には非常に平易な文章で書かれていて、読み手を選びません。
2と4はラカン派の哲学者によるカント・ヘーゲル読解なのですが、ラカンを理解せずとも(いや、本当は理解したいところですが)カントとヘーゲルをこのように使えるのか、こういう風に新しく解釈を打ち出していけるのかと感銘しました。決してポストモダン的な読解ではなく、割とまともな解釈だと(少なくとも僕は)思うのですが、日本ではあまりレビューされていない(というか色物扱いされている節さえある)ので残念です。特に4はカントの倫理学のラディカリズムを非常に明確に伝えていると思います。
3は大澤さんによる社会学講義。彼は著作もさることながら講義こそが面白く、京大のときもいつも自分がそのとき考えている新しいアイデアを題材にしていて、学部生のときの僕は非常に興奮したものでした。
5は、2や4と対照的に極めてオーソドックスなカントの研究書ですが、テクストに忠実に読み解かれていて、蒙を啓かれること間違いなしです。カントと啓蒙というテーマにとてもシンプルに、しかし問題意識を持って取り組んでいて、「啓蒙」という特有の思想的運動を捉える導きの糸になります。
今年の収穫は7によって若き冒険家にして写真家・著述家である石川直樹さんを知ったことです。石川さんの文章はとてつもない冒険を記すのに不向きではと思うほど冷静沈着でありながら、かえってその抑制された文体からにじみ出ざるを得ない、実存の冒険への意志が露わです。読みながら何度も胸に去来したのは、自分がこんなちっぽけな日常のルーティーンに閉じ込められていること、日常生活の中で冒険していないことの歯がゆさと、自分でもちょっとしたことでその閉塞感から抜け出せる力を得ることができるかもしれないという希望と飛翔感でした。
8は、自分がつらい時期に読んだ読み物の中で、ひときわ噛み締めたい本の一つです。穏やかに自分の苦しい恋愛(とその終わり)を綴っていて、私小説とも日記とも分からないような内省的なものなのですが、どうしてか普遍性を持つものに仕上げられていると言う文学の不思議を痛感しました。

2012年も、良い読書ができますように。本に愛を込めて。