'12読書日記9冊目 『海の仙人』絲山秋子

海の仙人 (新潮文庫)

海の仙人 (新潮文庫)

170p
総計2486p
不思議な小説に見える。三億円あたってサラリーマンを辞めて敦賀で一人暮らしを始めた主人公のもとに、ファンタジーという名前の神様が現れる。これだけ書けば、へんちくりんな小説でしかないし、読み始めてすぐは僕もそう思った。色物だな、と。しかし、断じて違った。
登場人物を巧みに増やしていきながら、そのだれにでも深く感情移入できるような描き方をする。出てくる人たちにはどこか孤独の影があり、過去に囚われながら今を生きている。神様「ファンタジー」はその隙間を埋めるようにふとした時に彼らの前に現れて、他愛もない話をするだけでまた消えていく。忘却のなかに真実があり、人は過去に囚われていても今を生きざるをえない。