'12読書日記10冊目 『カントと物自体』アディッケス

カントと物自体 (叢書・ウニベルシタス (58))

カントと物自体 (叢書・ウニベルシタス (58))

267p
総計2753p
カントの「物自体」概念のポジション。アカデミー版全集・遺稿集の編者である筆者が、それを探っていく。『純粋理性批判』には入門したてという僕には論評するのが難しいが、本書の立場はあまり好きではない。アディッケスは、『純粋理性批判』の中にカントの「体験」――物自体の存在の体験――を見出そうとし、さらにカントが批判哲学者であると同時に独自の形而上学的見解を持っていたとして彼の心理学的な論評さえ行なっている。カントは折に触れてドイツの論壇哲学への攻撃のために、物自体は不可知のものであり実在するかどうかの証明は不可能であるとして、物自体を主観概念の中に収めがちであった。が、アディッケスいわく、カントは確実に物自体の存在を前提としていてそれに対する懐疑さえ持たなかった。その根拠となるのは――アディッケスの議論には失礼ながら――幾つかの引用とカントが物自体を体験したとする心理的論評というかなり苦しいものとなっている。
しかし、丁寧に『純粋理性批判』にコメントをつけていく作業を読み進めていて、だいぶ以前読み込んだ時の感じは戻ってきた。カントの自己触発論は非常に興味深いし(だが、アディッケスの自我自体(先験的統覚を彼はそう呼ぶ)の概念はいただけない(訳者が解説でこっぴどく批判している))、カテゴリーの適用可能性を二種類に区分するという方法は勉強になった。基本的に面白味のない文章だが、とはいえちゃんと結論の章を設けてくれていて、簡明なまとめが示されているので分かりやすい。