'12読書日記11冊目 『カント入門』石川文康

カント入門 (ちくま新書)

カント入門 (ちくま新書)

238p
総計2991p
今までいくつか入門書を読んできたが、本書はその中でも随一の本だと思う。カントは『純粋理性批判』をアンチノミーの記述からはじめるプランを持っていたが、結局実行せずに終わった。本書は、そのプランを入門書のレベルで再現してみせる。三つの批判書はもとより、宗教論までをも扱っていて、カントの体系が分かりやすい。しかも、『純粋理性批判』の議論にもちゃんと深いレベルでページが割かれている。特に、純粋悟性概念(カテゴリー)に関する議論は分かりやすくて理解が進んだ。カントはカテゴリーを、自然法学の「根源的獲得」という概念をアナロジーとして用いて説明した。カテゴリーがア・プリオリな概念であると言われる場合、それは「生得的」を意味するのではない。ライプニッツなどは悟性を生得的なものとして捉え、必然的にその悟性を想像した神の存在が前提される。しかしカントは純粋悟性概念の起源を遡及的に探求しない。もちろん、だからといってカテゴリーが経験的に獲得されるわけではない。

カントが第三項として導入した自然法用語「根源的獲得」は、一切の先なる所有者を、また先なる根源を前提しない概念である。したがって神からも経験(先なる根源)からも派生しない概念である。それは悟性がその自己活動によって悟性自身から獲得したという意味である。そしてその意味で、カテゴリーは悟性自身にその根源を持つ概念である。それはしたがって、常識ではもとより、哲学史の伝統から見ても普通では思いつかない概念である。

これは、非常に啓発的な指摘である。