'12読書日記16冊目 『世界の共同主観的存在構造』廣松渉

世界の共同主観的存在構造 (講談社学術文庫)

世界の共同主観的存在構造 (講談社学術文庫)

426p
総計4442p
読書会で、日本人の偉大な哲学者を読もう、やっぱり廣松か、みたいな話から読み進めた。1972年にこのような圧倒的な知的先進性を持つ本が書かれたことは特筆すべき事態である。マルクスからの薫陶なのだろうが、彼の哲学は極めて社会学に親和性が高い。「共同主観的」という観点から物象化について語り明かしていく議論は明快すぎるほど小気味がいい。言語的あるいは共同的交通Verkehr(これはマルクスの概念なのだろう)から物象化の秘密が解き明かされていくのだが、それをより緻密にやったのが大澤さんなのだろう、という気がしている。廣松の固有名論(果たしてあるのか?)も本書でははっきりと説明されているわけではないが、興味深い。言語の交通=流通、あるいは道徳律の交通=流通という事実性からスタートするという視点は、岩井克人貨幣論にも受け継がれているのかもしれない。構造主義が当たり前になった今でさえ、その明確な論旨に感銘を受けた。