'12読書日記42冊目 『カントにおける倫理・法・国家の問題』片木清

411p
総計11749p
カントの政治思想・法哲学に関してこれまで日本で出された本の中でもっとも重要な文献の一つ。ドイツの先行研究を踏まえながら、そしてなによりカント『人倫の形而上学』やその『省察』その他からの大量の引用を含んだ、詳細な研究といっていい。
カントの法哲学は『人倫の形而上学・法論』を読めば分かるように、「主権者」や「共和制」「代議制」などの基本的な定義がかなり広範囲な意味を持ちつつ使われており、しかもロジックは錯綜していて難渋である。さらに、カントは一方で共和制を理念的な政治形態として定位しつつ、他方で抵抗権を否定し革命を退け、それどころか主権者(と法)への絶対服従を説きさえする。このように錯綜して書かれた議論を逐一粘着的に掘り起こしていく本書の議論は、大変な示唆に富む。
が、僕はこの本に書かれたことのほとんどに対して同意しない。本書の主要なテーゼは、カントの理念的・形而上学的な共和制理論は、純粋哲学と違って、現実に対して批判的に機能せず、むしろその現実――啓蒙専制体制を持つプロイセンの現実――を正当化するように読める、ということである。僕はこのテーゼに反論する用意をいくらかしているが、それでもなおもっと徹底的に全面的に、本書は否定されつくされねばならない、という怒りを含んだ感情を持つ。
とはいえ、カント政治思想に対する、こうした見解(形而上学的議論によって現実の絶対主義国家を正当化している)はこの間幾分廃れてきつつもある。マウスの難解な議論も、その流れを推し進めるのに役だっているのだろう。今夏は『法論』をもう一度最検討してみようと思う。