'12読書日記51冊目 『クェーサーと13番目の柱』阿部和重

クエーサーと13番目の柱

クエーサーと13番目の柱

255p
総計14181p
アイドル/見る-見られる/可能世界、というなんだかやけに最近の流行りのものばかりを詰め込んで、それをお得意の圧倒的な疾走感のもとに描き出してみせる小説。と書けば本当に何だか軽薄な色物っぽい感じもするが、小説の軸にあるのは「引き寄せの法則」というニューエイジ系の成功哲学のようなもの(ぐぐったら色々出てきます)。簡単に書けば、正しく願う者はその願いを(あらゆる宇宙の可能世界のデータベースの中から)引き出すことができる、という「法則」なのだが、それが小説のモチーフになっている。「正しい願い」というのは、可能世界の中にあってもいっそう具体な筋書きを伴ったものでなければならない、とされている。小説の中では、アイドル掲示板の「祭り」が出来事の顛末をなしているのだが、ネット上の「祭り」というものの特質は「引き寄せの法則」と重なりを持つのだ。対応関係を書けば、ネットというデータベースに「正しく」「願いを」書き込めば、つまり「祭り」を起こすことが出来れば、それは現実に反映される、というより現実化しようとする動きを生み出すことができる。宇宙/ネット、正しい願い/祭りを起こさせるような書き込み、というモチーフが巧みに用いられているのである。
この小説は、最後、radioheadの"Airbag"という曲とともに希望で終わる。その希望は、もしかすると、僕らが「正しく願えば」、つまり「一層具体的に願えば」、ネットから現実を変えることができるというものでもあるかもしれない。可能性の中から、最善の可能性を紡ぐには、はっきりと明確に具体的に、願わねばならない、ということなのか。