'12読書日記73冊目 『アダムとイヴ 語り継がれる「中心の神話」』岡田温司

220p
総計20281p
さすがの岡田温司である。キリスト教系の表象の博学ぶりを遺憾なく発揮し、しかも退屈させることなく(つまりは単なる衒学的知識開陳にとどまらず)、「アダムとイヴ」という歴史上最も有名な「神話」、神話の中の神話が、どのように表象文化において語られてきたか――いや、表象文化だけではなく、哲学・神学にまで議論は及ぶ――を軽快に語っている。言うまでもなく、神学的な議論に終始することは、もとよりこの筆者の仕事においてはありえないだろう。アダムとイヴが呼び出される無数の西洋美術を挟みつつ、ページが組み立てられているので、目にも楽しい。小著であるとはいえ、掻き立てられる知的好奇心は相当なものだ。第1章「人間の創造」、第2章「エデンの園」、第3章「原罪と追放」、第4章「エデンの東」の四章構成になっている。これまで中公新書で岡田は『マグダラのマリア』、『処女懐胎』、『キリストの身体』と優れた本を出してきたが、これらが新約聖書を中心にしたものであるのに対して、今回は原罪・楽園追放という旧約を扱っている点でこれまでとは違うといえるかもしれない。そして、旧約の創造神話がまことに不可思議で興味深いだけに、それらについての神学的・哲学的解釈史を、さらには表象文化史を経巡ることも、まことにわくわくするのである。