11-4
1
堕落した共和制における市民のような一日を送ったが、バイト後、某君とご飯を食べて有徳になった。政体は循環するのである。時間は、循環、する、のである。
2
徳が腐敗したのちにバイト。有徳であるためにバイト。現代文の評論文で、岡田暁生(あけおって読むらしい。ぎょーせいとしか読めない)の文章が。芸術の「感動」とはいかなることか、ということについて書いていた。いわく、それはエクスタシー、つまりは自己滅却して他者と、宇宙と合一しようとする狂気の試みを、受容することであるとのこと。非常に納得する。岡田さんは大学生の時にリヒャルト・シュトラウスのオペラ「サロメ」を見て、この種の芸術体験をしたらしい。背徳さ、死への欲望という狂気じみたテーマ、そうしたものによって「雷に打たれたように…放心状態になった」とあった。僕のこういう体験は、小学六年生の時に一人で映画館で見た『ダンサー・イン・ザ・ダーク』だったように思う。この世の規範的なもの、学校で教わる美徳的なもの、そうしたものがいっさい失効している世界、悲劇のようなカタルシスにいたることもなく、ビョークのやや陰鬱で、しかし楽しげな雰囲気もある歌声が、いっそうの寄る辺ない寂しさを伝え、とにかく身体が束縛されてどうして良いのか分からなく、ただ涙が流れてきたのを覚えている。ということを連れ合いに話した。連れ合いは、そっけなかった。
3
安息日。語学の勉強をちょっとして、アガンベンを読んでいる。あ、カントの本もちょっと読んだ。俺偉い。最近はずっと山下達郎のベストを聞きふけっている。PAPER DOLL、スプリンクラー、ジャングル・スウィング、いつか晴れた日に、がお気に入り。というかずっと聞いていて飽きない。CDを買う事自体今年はじめてじゃないかな。あ、矢野顕子のライブCDを買ってもいた。こちらもいい。昔はもっとCDを買っていたのだが。しかし、とにかく達郎すばらしいにつきる。歌声もさることながら、アレンジの素晴らしさが際立つ。ポップソングで勝負するとはこういうことを言うのだと思うね。「スプリンクラー」は、今も流れているのだが、歌詞も良い。
10日ぶりの雨の日
握りしめた手をふりほどいた
光る舗道
…
薄暗い地下道へと
流れ落ちる雨 それはまるで
壊れたスプリンクラー
この暗い感じがたまらなくいい。最近のポップソングの歌詞は、「10日ぶりの雨の日」という言葉、この叙事的な言葉がもつ叙情性を知らなくなって久しい。ユーミンもこういう風景を描くのがうまい人だった。
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