'12読書日記75冊目 『東京プリズン』赤坂真理

東京プリズン

東京プリズン

441p
総計20943p
現在と過去を文学的な企てにおいて往還していき、過去の自分をまさに救おうとする、なかば途方も無い試みだ。テーマは天皇の戦争責任。1980年代にアメリカのメイン州の高校に留学していた主人公は、単位取得のために「天皇に戦争責任はあるか」というディベートを行わされる。なかばシャーマニズム的な主客が、あるいは主体と自然が、一体となるような京都学派的な主体の問い直しが、物語の語りにおいて行われる。ディベートの舞台は、さながら東京裁判のようになり、大君(天皇)が、英霊が、母が、現在の自分が、過去の主人公の「うつわ」のなかに満ちていき、複数の音声がピープルを形成する。ディベートは一度は――過去において実際に失敗に終わる――。しかし、過去と現在が交差し、過去が救われる――。ディベートが――過去において――再び開始される時、その過去は、変わるのだ。
重たく、引き受けることが難しい問題だ。決して、その試み、天皇の戦争責任を問うという試みと、筆者が物語の中で導き出す答えが成功しているとは言えない。だが、過去と現在を、そして日本とアメリカを、あるいはベトナムを、自然を、往還していき複数化されるヴォイスは、オーヴァーラップして、現実の(あるいは過去に内包される現実の)複合的なありさまをまざまざと浮かび上がらせてくる。「文学史的事件」とまでは言えないし、僕は手放しで祝福できないが、力作には間違いがない。