'12読書日記78冊目 『ソラリスの陽のもとに』スタニスワフ・レム

382p
総計21906p
タルコフスキーの『ソラリス』を去年だかに見た。ソラリスの「海」の曰く言いがたい不気味な動きが、タルコフスキー独特の「水」の表現とも重なって、見るものを不安にさせる。はっきり言って映画自体は、抽象的すぎて分からなかったところが多かったのだが、本家の小説の方は、かなり緻密に(それがそもそもSFのあり方でもあろうが)「ソラリス」についての科学描写に割いており、こちらのほうがわかりやすかった。タルコフスキーの場合、極度に説明を省くところがあるから。
実際、映画と小説は別のものであり、どちらも素晴らしい。僕としては久しぶりにSF小説を読んだということもあり、「ソラリス学」(これまでソラリスについてなされた研究の一切)に邁進してきた科学者たちのエピソードを読むのが楽しかった。だが、やはりなんといっても、ソラリスが人間の心象風景、しかも抑圧された無意識の心象(あるいは過去の記憶)を当人の目の前に具現化してしまうという恐るべき工夫である。主人公のケルビンとその恋人ハリーの痛ましいやり取りは、感動的である。ハリーを無残な形で失ってしまって身動きが取れないケルビンが、その過去を取り戻そうとソラリスが創りだした「人間そっくりのもの」を――一度はロケットの中へ放逐してしまうにせよ――愛していくプロセスに心を打たれるのである。だが、実際は、そのすべてがケルビン自身の幻想でもあり、それを思い知るケルビンに涙が溢れてくる。