'12読書日記81冊目 『レッキング・クルーのいい仕事』ケント・ハートマン

レッキング・クルーのいい仕事 (P-Vine Books)

レッキング・クルーのいい仕事 (P-Vine Books)

455p
総計23215p
知り合いの方が訳されたので、手にとって読んでみた。非常に面白い!
レッキング・クルーというのは「ロック・アンド・ロール黄金時代を支えた」スタジオミュージシャンの集団である。しかし、その黄金時代――具体的には、60年代から70年代初頭にかけてロサンゼルスのスタジオから作られたロック・ポップ音楽が隆盛を極める時代――に、彼らの名前は一般聴衆には決して知られることはなかった――ミュージシャンらはこぞって彼らの才能を賞賛していたのだけれど。ビーチ・ボーイズ、バーズ、ママス&パパス、サイモン&ガーファンクルモンキーズフィフス・ディメンションら、錚々たる面々のスタジオ録音はほとんどすべてレッキングクルーというプロのスタジオミュージシャンの集団によって制作されたのだが(つまりは有名なバンドの音源はバンドのメンバーによってではなく、レッキングクルーによって録音されていた)、レコード会社の意向で、彼らの名前はレコードにはクレジットされることがなかったのだ。
レッキング・クルーには、ドラマーのハル・ブレインやジム・ゴードン(いとしのレイラの共作者)、キーボーディストのラリー・ネクテル、レオン・ラッセル、ギタリストのグレン・キャンベルドクター・ジョン、トミー・テデスコ、ベーシストにキャロル・ケイ、ジョー・オズボーンら、多数のメンバーが存在した。ことの起こりは、フィル・スペクターである。彼が「ウォール・オブ・サウンド」のためにロサンゼルスの名うてのプレイヤーを一同に集結させ、その腕前が流行しつつあったロックの録音に重宝されていくのだ。レッキング・クルーの歴史には、上記のフィル・スペクターや、ビーチ・ボーイズブライアン・ウィルソンフランク・シナトラらが関わっている。スペクターがウォール・オブ・サウンドで一躍名を馳せ、それがブライアン・ウィルソンを刺激し、凝りに凝ったスタジオ録音が目指される。そのプロデュースや音楽を現実化するのが、レッキング・クルーの面々なのだ。
数々のインタビューを元に、著者はレッキングクルーに関する物語を様々に紡ぎ上げる。ヒット曲の裏にはレッキング・クルーがいたのであり、その面々は小さなアメリカンドリームをそれぞれに抱いて成功を手にしていく。スペクターやウィルソンの興隆と没落、ビートルズの席巻、アメリカの政治的な状況の変化、そしてなにより時代がジャズやポップからロック・アンド・ロールへと移り変わっていき、音楽界を一変させる有様が、レッキング・クルーを通して語られていくのである。
これだけ書いてみても、興味の沸かない人のために、以下にレッキング・クルーによって制作されたヒット曲のほんの一部を載せておこう。思わず、ほんまかいな!と叫びたくなるような曲まで、ことごとく演奏はレッキング・クルーなのだ。you tubeがその興奮に彩りを添えてくれるだろう。今では簡単にHD音源でその演奏の趣向や手練手管を楽しむことができるのだ。*1

「ジッパ・ディー・ドゥー・ダー ZIP-A-DEE-DOO-DAH」 ボブ・B・ソックス&ブルー・ジーンズ
「ヒーズ・ア・レベル HE’S A REBEL クリスタルズ
「サーファー・ガール SURFER GIRL」 ビーチ・ボーイズ
「サーフィンUSA SURFIN’ USA」 ビーチ・ボーイズ
「ハイ・ロン・ロン DA DOO RON RON (WHEN HE WALKED...)」 クリスタルズ
「ビー・マイ・ベイビー BE MY BABY」 ロネッツ
「アイ・ゲット・アラウンド I GET AROUND」 ビーチ・ボーイズ
「デッド・マンズ・カーブ DEAD MAN’S CURVE」 ジャン&ディーン
パサデナのお婆ちゃん LITTLE OLD LADY (FROM PASADENA)」 ジャン&ディーン
「ふられた気持ち YOU’VE LOST THAT LOVIN’ FEELIN’」 ライチャス・ブラザーズ
「愛の山脈 MOUNTAIN OF LOVE」 ジョニー・リヴァース
「ヘルプ・ミー・ロンダ HELP ME, RHONDA」 ビーチ・ボーイズ
「ミスター・タンブリン・マン MR. TAMBOURINE MAN」 ザ・バーズ
夢のカリフォルニア CALIFORNIA DREAMIN’」 ママス&パパス
「明日なき世界 EVE OF DESTRUCTION」 バリー・マクガイア
「アイ・ガット・ユー・ベイブ I GOT YOU BABE」 ソニー&シェール
「グッド・バイブレーションズ GOOD VIBRATIONS」 ビーチ・ボーイズ
「ソウル・アンド・インスピレーション (YOU’RE MY) SOUL AND INSPIRATION」 ライチャス・ブラザーズ
「アイ・アム・ア・ロック I AM A ROCK」 サイモン&ガーファンクル
「夜のストレンジャー STRANGERS IN THE NIGHT」 フランク・シナトラ
「憎いあなた THESE BOOTS ARE MADE FOR WALKIN’」 ナンシー・シナトラ
「ネバー・マイ・ラブ NEVER MY LOVE」 アソシエイション
「ビートでジャンプ UP, UP AND AWAY」 フィフス・ディメンション
「ウィチタ・ラインマン WICHITA LINEMAN」 グレン・キャンベル
「真夜中の誓い MIDNIGHT CONFESSIONS」 グラス・ルーツ
マッカーサー・パーク MACARTHUR PARK」 リチャード・ハリス
ミセス・ロビンソン MRS. ROBINSON」 サイモン&ガーファンクル
「ボクサー THE BOXER」 サイモン&ガーファンクル
「遥かなる影 (THEY LONG TO BE) CLOSE TO YOU」 カーペンターズ
「クラックリン・ロージー CRACKLIN’ ROSIE」 ニール・ダイアモンド
アリゾナ ARIZONA」 マーク・リンゼイ
「悲しき初恋 I THINK I LOVE YOU」 パートリッジ・ファミリー
「明日に架ける橋 BRIDGE OVER TROUBLED WATER」 サイモン&ガーファンクル
「雨の日と月曜日は RAINY DAYS AND MONDAYS」 カーペンターズ
「悲しきジプシー GYPSYS, TRAMPS & THIEVES」 シェール
「イエスタデイ・ワンス・モア YESTERDAY ONCE MORE」 カーペンターズ
「追憶 THE WAY WE WERE」 バーブラ・ストライサンド
「ラインストーン・カウボーイ RHINESTONE COWBOY」 グレン・キャンベル

*1:惜しむらくは、異常なまでに誤植が多いことである。20ページに一つくらいの率で誤植がある気がする。残念すぎる校正である。