2012年の10冊

年末恒例。今年の10冊。今年はあんまり心に響く本がなかったのですが、それなりにいろいろ読みました。小説から5冊、それ以外から5冊選びました。

1.インゲボルク・マウス『啓蒙の民主制理論 カントとのつながりで』
2.スラヴォイ・ジジェクイデオロギーの崇高な対象』
3.エルネスト・ラクラウ/シャンタル・ムフ『ポスト・マルクス主義と政治 根源的民主主義のために』
4.丸山真男『忠誠と反逆』
5.上野修デカルトホッブズスピノザ 哲学する17世紀』
6.ミシェル・ウェルベック素粒子
7.ミハイル・ブルガーコフ巨匠とマルガリータ
8.スタニスワム・レム『ソラリスの陽のもとに』
9.金井美恵子『タマや』
10.ハーマン・メルヴィル『ビリー・バッド』

今年発売された本はランクインせず。1から10まで番号を振っていますが、ランキングと言う意味ではないです。
1はカントの政治思想から最大限の可能性とアクチュアリティを取り出そうとした試み。カントの政治思想研究の体裁をとりながらも、現代への批判的視座をも提供してくれる民主主義理論の書物となっています。2はジジェクの初期の頃の冴え渡りっぷりがすごいと思います。ラカンについては門外漢ながら、イデオロギー分析の可能性と方向性を示したところに感銘を受けました。そのジジェクにも影響を与えていると思われる民主主義理論の本が3です。最近ちくま学芸文庫から改訳版が出たので手に入れやすくなりました。これまでのマルクス主義の政治理論を振り返りつつ、自分らのオリジナルな展開を示しています。
小説では、6を教えてもらったのが一番の収穫でしょうか。哲学的な議論と文学の想像力があわさったような作品で、その上ユーモアも抜群で何度も笑い転げてしまいました。7は池澤夏樹編集の世界文学全集の一冊。奇想天外で途方もない想像力が生み出したロシアの暗黒寓話には驚かされます。9は、他の8や10と比べて何か大げさな活劇が繰り広げられるわけではないですが、ちょっとした日常のなかに優しい視線を投げかけてくれます。「タマ」という愛すべき猫をめぐる、駆け出しの作家の日常が描かれるのですが、そこに登場する人らの温かさと、主人公の先行き不安な感じがたまらなく好きです。文体も、独特の長い息継ぎのない文章になっていて、僕の好みなタイプでした。

ついでに付け加えておけば、2012年に出版された本のなかでは以下の7冊が良かったです。

1.砂原庸介『大阪―大都市は国家を超えるか』
2.ケント・ハートマン『レッキング・クルーのいい仕事 ロック・アンド・ロール黄金時代を支えた職人たち』
3.赤坂真理『東京プリズン』
4.岡田温司『アダムとイヴ 語り継がれる「中心の神話」』
5.ジョルジョ・アガンベン『裸性』
6.青山拓央『分析哲学講義』
7.五野井郁夫『デモとは何か 変貌する直接民主主義

来年も良い本にめぐり合えますように。
良いお年を。