'13読書日記14冊目 『自由の秩序』ヴォルフガング・ケアスティング

自由の秩序―カントの法および国家の哲学 (MINERVA人文・社会科学叢書)

自由の秩序―カントの法および国家の哲学 (MINERVA人文・社会科学叢書)

441p
総計7191p
カントには哲学があるが、政治哲学はない、あっても老衰の産物(つまり馬鹿げたもの)だ(大意)というショーペンハウアーに端を発する誤解が蔓延して久しい中、彗星のごとく登場した本格的なカンと法哲学の研究書である。『人倫の形而上学・法論』の詳細なコメンタールとなっている本書は、カントの法哲学がまさに批判哲学の作法によって隅から隅まで構築されているということ、それは理性法の観点から自由主義を徹底的に擁護し、しかも同時に革命ではなく改革を統治者に義務付けるものだということ、これらのことをカントに劣らぬ哲学的な議論をもって証明してみせたのである。1984年に本書が出版されて以後、カントの政治思想を表面的な読解から否定するような(つまりは革命の否定、抵抗権の否定などからカントの政治思想には見るべきものがないとするような)議論は、徹底的に封鎖されたといってもいいだろう(にもかかわらず英語圏や日本の議論ではこの圧倒的な成果がまだ未消化・未摂取に留まっている)。しかも、本書は、ホッブズやロック、ルソーの社会契約論との比較や、同時代のカント主義者による解釈との比較から、カントの法哲学がいかに際立ったものであるかということをも提示する。
本書のような大著が邦訳されたということ、これは2013年の出版業界の一大ニュースになってしかるべきものである。インゲボルグ・マウス『啓蒙の民主主義理論』とともにカントの政治哲学の現代にまでおよびうる射程を提示したものとして、本書を位置づけることもできよう。マウスがカントの政治思想の中に共和主義、とりわけ共和主義的民主主義の基礎づけの作業を読み取るのに対し、ケアスティングはそうした民主主義的基礎づけをカントに認めつつも、カントの議論の仕方、つまり理性法の構築というア・プリオリな議論の力をその上位に据える。アレントが『判断力批判』に、ロールズハーバーマスが『人倫の形而上学の基礎づけ』に、自らの政治理論への応用可能性を見出したのに対して、ケアスティングはカントによる法の思考を徹底して追求し、その可能性を彫琢するのである。2007年版の「緒言」にはカントの政治理論の現代的応用可能性をレビューした議論も含まれており、見通しは遥かに良い。解説の石田京子さんも書かれているように、ケアスティングのレベルで議論がなされねばならないし、その要求の高さは後続の研究者らを戦かせもするが、それだけ圧倒的な研究の産物だということだ。
啓蒙の民主制理論―カントとのつながりで (叢書・ウニベルシタス)

啓蒙の民主制理論―カントとのつながりで (叢書・ウニベルシタス)