'13読書日記15冊目 『ネットと愛国 在特会の「闇」を追いかけて』安田浩一

370p
総計7561p
kindle版が期間限定(?)で250円で買えるので、ぜひぜひ。
在特会」。その名前はネットを長くやっていればおのずと聞き知るに至ることになるだろう。いわゆるネトウヨと呼ばれる人たちが、街頭に出てレイシズムむき出しのヘイトスピーチを行う、そういう団体、というようなぼんやりとしたイメージも持っているかもしれない。本書は、その在特会がどのような人物によって主宰され、どのような人々をメンバーに持つのか、彼らが行なっていることはどのようなことか、彼らはそれを何のためにやっているのか、こうした視点から在特会とその周辺の関係者らにインタビューを行なって構成された、ルポルタージュである。在特会の会長へのインタビューがない点で一流のルポルタージュとは言い難いかもしれないし、会長・桜井を含めた在特会のメンバーらの参加動機を「承認欲求」というような形でざっくりとまとめてしまうのも、やや違和感があるが、それらを差し引いても、いま日本でどのような「市民運動」が起きつつあるのか、そこに参加するのはどんな人なのか、本書は明快な筆致で明らかにしてくれる。
本書の最も大きな貢献の一つは、「朝鮮人をぶち殺せ!」などと叫ぶ団体に参加する人がごく普通のありふれたどこにでもいるような人であり、われわれと彼らを分け隔てる距離などさほど存在しない、ということであろう。左翼にとって、見たくない現実をつきつけられているような気分にさせられる本だといって良い。排外主義的な街宣を行う者たちは、左翼の言説の受け皿にすくい取られるのではなく、むしろそうした左翼の言説を「反日」とラベリングして敵対する。彼らは自分の鬱屈した日常を、在日朝鮮人が不当に利益を得ているという事態を告発するという大義名分を後ろ盾にして、他者を容赦なく攻撃し、充足を味わうのだ。本来ならば社会的に疎外された人らを結集して運動に巻き込んでいくはずの−−それを名目に掲げている−−左翼運動が、その機能を失効したところに、在特会が現れてきたのである。その証拠に、彼らは自らを「市民運動」として位置づけ、市井の人間−−エリート主義的な左翼ではなく−−の立場から、過激な発言で他者を攻撃するのである。市民運動はかつては左翼の十八番だったのだが、それを換骨奪胎させられてしまっているのだ。もちろんその「市民」とは一体誰を指すのかは明瞭ではないにせよ。
日本の社会史の文脈に置き換えてみた場合、99年頃にピークを迎える新興宗教団体の盛り上がりが、善かれ悪しかれオウム真理教の事件で幕を閉じ、そのあとに日韓ワールドカップを契機としてナショナリズムが盛り上がっていき、その延長線上に在特会というネットと市民運動を直結させるような新たな動きが生まれているのだと言えよう。オウムのような新興宗教にはまっていった人らと、ナショナリズムを加熱させて他者を攻撃するにまで至るネット世代の新たな右翼に加わる人らが、なんとなく重なって見えるようでもある。