'13読書日記44冊目 『人間の性はなぜ奇妙に進化したのか』ジャレド・ダイアモンド

文庫 人間の性はなぜ奇妙に進化したのか (草思社文庫)

文庫 人間の性はなぜ奇妙に進化したのか (草思社文庫)

234p
原題はwhy is sex fun?というもの。人間のセクシュアリティの奇妙さを、進化生物学的な観点からうんぬんしていくものになっている。問いの立て方は面白いのだが、解答は予想の範囲内にとどまるというか、陳腐というか、なんだったらそういう解答の仕方でいいのかと疑問を持ってしまう。確かに、本書の問いの立て方がワクワクさせるものであることは間違いない。

人間の性の特徴は、類人猿との比較で見られるその他の特徴と関連しているのだろうか。直立二足歩行と大型の脳のほかに(そしておそらく突き詰めればその結果生じた)人間の特徴としてあげられるのは、比較的体毛が少ないこと、道具を使用すること、火を活用すること、言語・芸術・書字を発達させたことなどである。仮にこうした特徴のいずれかが土台となって人間の性が特異なものになったとしても、その関連は全くはっきりしない。たとえば体毛が少なくなったからといって、なぜ楽しみのためにセックスをするようになったのか。あるいは火を使うようになったからといって、なぜ女性は閉経を迎えるようになったのか。どちらも説明がつかないのである。そうではなくて、私は逆の因果関係を指摘したいと思う。つまり直立二足歩行や大型の脳と並んで、閉経や娯楽のためのセックスが重要な要因となり、人間は火を使い始め、言語や芸術や書字を発展させたのではないか、とかんがえるのである。

ダイアモンドは、こうした問いに対して、進化生物学の知見を紐解き、様々な動物との比較を通じて、遺伝的な進化の過程を追っていき、人間の今の有り様に対して一定の説明を与えようとするのだが、その回答に辿り着くまでの説明――進化生物学の説明――は面白いにしても、答えを与える重要な議論の箇所では、文化人類学(しかも素朴な)が援用され、さらに古代社会と現代社会を同列に扱ったりもしているので、陳腐になってしまう。簡潔に言えば、人間のことを考えるときに社会科学的な議論をするわけではなく、いわば遺伝的な自然淘汰一本槍で行こうとする傾向が強いので、議論が非常に雑になってしまうのだ。もちろん、その答えに至るまでのプロセスは興味深いものが多い。オスでも乳汁分泌が起きるが人間はそういうものを発達させてこなかったとか、「進化的拘束」と呼ばれる考え方――これは動物社会学からのものだろうか――、人間の排卵時期が本人にも周囲にも隠されているのはどうしてか、など。
「科学読み物」という感じなので、厳密な話をしているわけではないのだが、それにしてもと思うところは多い本だった。