'14読書日記10 『アダム・スミスの自然神学』田中正司

アダム・スミスの自然神学―啓蒙の社会科学の形成母体

アダム・スミスの自然神学―啓蒙の社会科学の形成母体

これはなかなかものすごい。スミスの根底に流れる自然神学の議論を、スコットランド啓蒙の問題としてすでに存在したものとして捉えて、スミス以前のカーマイケル、ハチスン、ヒューム、ケイムズらの議論を追い、それがスミスによって受け継がれた時に「社会科学」が生誕するという様子をつぶさに明らかにしてみせる。神学の世俗化という単純な理解を超えて、神学がスミスにおいて論証の対象としてではなく、むしろそれが暗黙の前提とされていたからこそ社会の経験的な分析が可能となるという――スミスにならって言えば――意図せざる帰結が生じていくさまは、説得的に見える。そうなれば、やはりスコットランドの文脈においても、(重農主義者やルソーなどの)フランスの文脈と同様、神の統治としての自然のオイコノミアの問題も関係してくるのじゃないか、フーコーが「統治の自然主義」という時に(おそらくわざと?)見落としていた神学と統治、神学と統治の学としての政治経済学の関連も議論すべき対象として浮上してくるのではないか、ということが気になってくる。