'14読書日記14 『中世ヨーロッパの社会観』甚野尚志

中世ヨーロッパの社会観 (講談社学術文庫)

中世ヨーロッパの社会観 (講談社学術文庫)

隠喩のなかの中世―西洋中世における政治表徴の研究

隠喩のなかの中世―西洋中世における政治表徴の研究

将基面先生の『ヨーロッパ政治思想の誕生』で参考文献として『隠喩のなかの中世』が挙げられていて興味をもったので読もうと思ったら、講談社学術文庫に『中世ヨーロッパの社会観』と改題されて収録されていた。もともとのタイトル『隠喩のなかの中世』が示すように、中世の神学者や宮廷学者らの著作に頻出する隠喩――蜜蜂、建築物、人体、チェス――がどのような意図で用いられていたのかを包括的に論じた本であり、それらの隠喩が背景としている神学的なコスモロジーを解読してくれている。
中世の隠喩と言っても、古代から引き継がれたものが多いのだが、もちろん名辞とシニフィエシニフィアンの関係が古代とは、そして中世内部でも様々に異なっており、それにともなって隠喩の機能も変化していく。例えば、蜜蜂の生体の記述はアリストテレスの『動物誌』、ウェルギリウスの『農耕詩』、プリニウスの『博物誌』などに現れているが、中世の作者らはそれらを利用して、政治的・道徳的な主張を行った。古代において蜜蜂が空高くで生殖を行うことをまだ知らなかったため、蜜蜂は交尾することなく生殖するものとして描かれたため、中世の作者らは蜜蜂を処女性の隠喩として用いた。また、王蜂が針を持たず、働き蜂らが勤勉に労働することは、王が権力・暴力ではなく統治すべきことを、そして臣民が勤勉に忠誠を誓うべきことを示す隠喩となった。あるいは、蜜蜂の蜜から教会の典礼で用いられるろうそくが造られることから、ろうそくのろうは処女から生まれたキリストの四肢に、燈心はキリストの魂に、炎はキリストの神性へと対応付けられて隠喩化される。
建築物、人体、チェスの隠喩についても同様に、隠喩の系譜と変転が辿られ、中性の社会観について勉強になるところが多い。
ヨーロッパ政治思想の誕生

ヨーロッパ政治思想の誕生