'14読書日記16 『普遍論争』山内志朗
- 作者: 山内志朗
- 出版社/メーカー: 平凡社
- 発売日: 2008/01/10
- メディア: 文庫
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筆者の研究を駆動させているのは、実在論対唯名論という図式ではなく、<見えるもの>と<見えざるもの>という図式、しかも両者の共約不可能性こそが中世哲学の問題圏の中核にあったのではないかということである。しかし、
その場合、重要なのは、共約不可能性の存在を主張することではありません。…〔問題は〕共約不可能性が見いだされる場合の紐帯がどのようにして可能なのかということなのです。もし共通の尺度がはじめから無かったら、もし途中から壊れてしまったらどうなるのか、ということです。つまり、最も近くにあるべきものが最も遠いものである場合、秩序は崩壊してしまうのです。そして、遠近の尺度も失われてしまう。不変の尺度はいったいどこにあるのでしょうか。…永遠性、恒常性、必然性がスタティックなものとしてあるのではなく、流動的、力動的なものとして語られることが哲学史のなかでよくあります。スタティックなものが理想としては不十分なものだからではなく、そのようなもの――理念でもイデアでもかまいません――への憧憬を初めから妨げているものがあるようにも思われるのです。テロスが永遠にして必然的なものであるのは、テロスが備えるべき性質ですが、テロスへの道程に障害が存在し、テロスへの途上にあることをテロスにするしかないことがあるように思われます。…そこに登場する障害を、私は「共約不可能性」と呼びたいのです。