'14読書日記47冊目 『史学概論』林健太郎

史学概論 (教養全書)

史学概論 (教養全書)

昭和28年(1953)初版。やはり時代状況もあってマルクス主義歴史学唯物史観との対決に多くを割いている。啓蒙の歴史哲学、歴史学派、マルクス主義、新カント派、解釈学(ディルタイ)と概ねこのような順で紹介がなされているが、歴史学が科学でありうるならばどのような要件を満たせばいいか、それはどのような意味か、という中心の問いがあり、学史をその答えとして見ていくという構成になっている。学史研究(つまり史学史)と科学としての歴史学の関係は、この本では等閑に付されているように思われる。歴史の「法則」と歴史の「個別性」が対立(ヘーゲルとランケの対立に重ね合わされるが)を調停するものが、ウェーバーの理念型だというふうに整理されている。本書は1970年の新版で、雑誌『展望』に掲載された「戦後歴史学の課題」が附論として加えられている。そこでは、ゲルハルト・リッターとアナール学派の論争の紹介が為されている。
なぜこういう本を読んでいるのかといえば、(政治・社会)思想史の方法論に関係するのだが、もう少し自分の研究に関係するところもある。ちなみに、ドイツでも歴史学派が登場する前、さらにはヘーゲルの歴史哲学が出てくる前、18世紀後半には、ドイツでようやく歴史学が一つの学問分野として自立しつつあった。中心となったのは、ガッテラー、シュレーツァーといった人物でゲッティンゲン大学を中心とした運動である。彼らはそれまで試みられてきた、サブディシプリンとしての王族の歴史、教会史、キリスト教普遍史から歴史を切り離して考え、歴史叙述の啓蒙性を志向した。歴史叙述の啓蒙性とは、ドイツにおいては実用主義Pragmatismusと結びついている。一方で人民がそれを読むことで自分の人生の幸福に役立てることができるような歴史が、他方で君主・統治者がそれを読むことで国家目的に適った統治を容易にすることができるような歴史がかかれなければならないと主張されたのである。その一方で、ドイツでは「人間の運命(Bestimmung der Menschen(heit)」というタイトルが流行しており、その影響のもとヘルダー、カント、レッシング、フィヒテヘーゲルにまで至る歴史哲学が哲学者によって書かれてもいた。ドイツ啓蒙におけるhistory of historiographyを見ていく場合には、これら2つの流れがどのような社会・政治的な時代状況のもとで書かれていたのか、それらが何に対して何をなそうとして書かれていたのか、これが僕の興味の中心である。こうした研究は残念ながら日本ではそれは未だ手付かずのままである。例外として、岡崎勝世さんの研究があるが、やや科学史的というかエピステモロジーの歴史っぽくなっており、僕の興味からは若干ずれる。
聖書VS.世界史 (講談社現代新書)

聖書VS.世界史 (講談社現代新書)

キリスト教的世界史から科学的世界史へ―ドイツ啓蒙主義歴史学研究

キリスト教的世界史から科学的世界史へ―ドイツ啓蒙主義歴史学研究

ドイツで言えば古典的な研究はすでにいくつか(ほんのいくつか)ある。
Noketer Hammerstein, Jus und Historie. Ein Beitrag zur Geschichte des historischen Denkens an deutschen Universitäten im späten 17. und im 18. Jahrhundert, Göttingen, 1972.は、ドイツで啓蒙絶対主義時代に新設されたハレ大学とゲッティンゲン大学において、国家官吏に有用な学問として法学と歴史学の革新があったことを伝えている。
他にも、もっと歴史叙述一般に絞った研究としてUlrich Muhlackのもの。
Geschichtswissenschaft im Humanismus und in der Aufklaerung. Die Vorgeschichte des Historismus

Geschichtswissenschaft im Humanismus und in der Aufklaerung. Die Vorgeschichte des Historismus

Staatensystem und Geschichtsschreibung: Ausgewaehlte Aufsaetze zu Humanismus und Historismus, Absolutismus und Aufklaerung

Staatensystem und Geschichtsschreibung: Ausgewaehlte Aufsaetze zu Humanismus und Historismus, Absolutismus und Aufklaerung

文学までも視野に入れたものとして
Wissenschaft aus Kunst. Die Entstehung der modernen deutschen Geschichtsschreibung 1760-1860, Berlin / New York, 1996.
アンソロジーとしては
H. E. Bödeker, G. G. Iggers, J. B. Knudsen und P. H. Reill (Hg.), Aufklärung und Geschichte : Studien zur deutschen Geschichtswissenschaft im 18. Jahrhundert, Göttingen, 1986 (2. Aufl. 1992)
アメリカ人が書いたものとしては、こちらも古典的。
German Enlightenment and the Rise of Historicism

German Enlightenment and the Rise of Historicism