'14読書日記52冊目 『リヴァイアサン』ポール・オースター

リヴァイアサン (新潮文庫)

リヴァイアサン (新潮文庫)

普段政治思想とかそんなことばっかり書いているブログで『リヴァイアサン』という書物を取り上げるとなると、やっぱりそっち方面かと思われるかもしれないが、小説である。抜群に面白い。物語は、語り手である小説家のもとに一人の男が爆発事故で死んだというニュースが届くことから始まる。死んだ男の身元は不明だが、小説家はそれがかつての親友であることを直感する。その親友と出会うところから、彼が最終的に爆死するに至るまでの、濃密な年月を描く。愛、憎しみ、別れ、悲しみ、死、饒舌、国家、自由、理念。語り手と親友の関係だけでなく、複数の主要な人物が二人の関係のなかに入り込み、それぞれが独特の物語をもって書かれている。割と長めの小説だが、ぐいぐい惹きつけられるようにして二三日で読んだ。タイトルであり、テーマの一部をなす「リヴァイアサン」だが、ホッブズ的国家というような意味合いもあるにはあるが、むしろ自分の内面・エゴという巨大な怪物を示唆しているように感じた。しかし思えば、ホッブズリヴァイアサンも細かな人間からなるものだったのであり、そう考えれば極小と極大における怪物が複層的に描かれているようでもある。92年の小説だが、これが9/11後のものだとすれば、また違った『リヴァイアサン』になっていただろうと感じる。『幻影の書』のように、本書でもオースターは読者にある謎を提示し、回顧的にそれを書いていく。謎は自己遍歴の核心にあり、それはしかし決して完全には解かれえないものだ。他人によっては言わずもがな、自分にとってもそうである。