本書は、
ヒトラー政権の誕生に至る経緯から、
ヒトラー政権最後までを描いた、いわば「教科書的な」新書である。しかし、この本を「教科書的」ということをためらわせるのは、確かに新事実などが明らかにされているわけではなく新事実などを踏まえた包括的な叙述になっているにもかかわらず、非常に巧みに歴史的事実を整理し、叙述の冷静さに徹しているがために、そのためにいっそう
ヒトラー政権の誕生とその経過(成功)のおぞましさが読書の効果として非常な力を発揮しているからである。味気ない叙述ではなく、冷静な叙述と呼びたくなるのは、まったく面白い読書体験をさせてくれるからである。ドイツ現代史の最前線で活躍し続けている筆者だからこそのなせる技であろう。新書にしては長いと感じるページ数だが、まったく長いと感じさせない叙述であり、これを読まずして
ナチスを語る事なかれというべき本である。