読書日記 『怒り』吉田修一
- 作者: 吉田修一
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2016/01/21
- メディア: 文庫
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今年は学会発表もせず、博論書き&バイトということで、新しい研究の進展はほとんどありません。悲しい。ほんで学振も通らへんかったので、来年もバイトの日々が決定。
非常勤講師になりたい! 教歴をつけたい!
わーわー言っておりますけどもね。博論を提出して一息ついたので、カントとあんまり関係ない本しか読みたくない気分になります。映画が公開されていたけれども、広瀬すずが過酷な演技を強いられているということを聞き、見るのが怖くなって原作に。しかし原作も怖かった。
吉田修一はものすごいエンターテナーなのだと思います。ゲイの描写は非常に生々しい。確かにあのようなパーリーピーポーゲイは一握りではあるとは言え、一抹の信憑性がある気がします。「怒り」というタイトルながら、主題を流れているのは、人と付き合っていくことがかくも困難であり、信じるということが裏切られることへの予期のために崩壊し、取り返しがつかなくなる、そういうことであろうと思いました。
沖縄編の、あの青年が、ひと目を隠れてペンションの客の荷物を乱暴に投げ捨てるシーン、どこか心の襞を逆なでするような恐ろしさがありました。あそこが一番、怖かった。
もちろん、多少の不満はあります。大きいものとしては、死を描かなければそれは伝えられないようなものであったのか、というもの。いくつかの死が登場しますが、そのうちのいくつかは不要なものであったのではないか。もちろん死をとりたてて意味をなさないものとして書くことを非難しているのではないのですが、死が意味をもつように書かれているこの小説のなかで、しかしその意味あるものとして扱われている死は本当に描写の必要性があったのか、その人は殺される必要があったのか、そのような感慨を持ちます。上野公園で行きずりで死んでいく必要があったのか。
細かいことですが、吉田修一の文章はところどころ違和感があって、僕は流暢にはあまり読めなかった。
泉の言葉に頷いた田中が、食パンの袋をパンッと破る。
これ、どないやねん。