07読書日記26冊目 「李陵・山月記」中島敦


多くの人は高校時代、「山月記」を教科書で読んで以来、中島敦の作品を読む機会を自ら放棄しているのではないか。難解で格調高い漢文調の文体がその回避を生む原因の大きな部分を占めているのかもしれない。


李陵・山月記 (新潮文庫)

李陵・山月記 (新潮文庫)


概して国語の教科書に掲載されている作品は面白くないものが多いが、やはりそうはいうものの、名作中の名作が収録されていることも確かであり、中島敦山月記」もそのうちの一つである。この薄命の文学者(33歳で夭折した)の、自己の存在観念の不確かさ(松岡正剛ミランクンデラとの共通点を述べているので、なるほど、と思ったのだが)を、漢文の様に研ぎ澄まされた文章構成で記された寓話は、思春期にこそ読むべきものだと、確かに思うのだ。


そのほかにも、「論語」などをもとに執筆された、孔子とその弟子達を巡る中篇「弟子」や、匈奴の捕虜にされながら漢への思いを断絶し、その事に苦しみながら自らのアイデンティティのアンビバレンスにもだえ続ける李陵を描いた「李陵」も、漢文体の流れを苦に思わぬほど面白く読めた。


218p

総計 7850p