'11読書日記35冊目 『11の物語』パトリシア・ハイスミス
- 作者: パトリシアハイスミス,Patricia Highsmith,小倉多加志
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2005/12/08
- メディア: 文庫
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総計11067p
ヴィム・ヴェンダース『アメリカの友人』が非常に面白かったので、原作は誰かと調べていたら、パトリシア・ハイスミスであった。周知のごとく『太陽がいっぱい』の著者である。彼女はミステリ作家だと一般には言われているらしい。読みたくなって探してみるも、本屋においてあったのはこれしかなかった。本書は、はっきりと言おう、大傑作である。タイトル通りに11の短篇集なのだが、どれも非常に不気味なのだ。不気味――というよりグレアム・グリーンの言葉をかりるなら「不安」、これほど人を不安にさせる短編小説はなかなかない。ホラーでもミステリでもないような、人間の存在の不安(というとハイデガーによりすぎているが)。現存在そのものの不安とでも言うべきか。かたつむりにまつわる話が二作あり、どちらも悲劇的な結末に終わるのだが、かたつむりのあの気持ち悪さが心底伝わってくる。しかし、ハイスミスはかたつむり自体の気持ちの悪い描写――例えばぬめぬめとした、とか――をことさらに書くことはしない。むしろ、そのような描写は切り詰められている。が、ゆえに、むしろかえって読み手の「不安」の想像力を爆発させるのだ。一番最後の「からっぽの巣箱」は、精神分析的な批評をしたくなるほどのものだが、僕は一番好きかもしれない。